栃木県老人福祉施設協議会会長インタビュー大山 知子会長

「地域ケア」の担い手として

介護保険制度のスタートによって
老人福祉施設も利用者から選ばれる競争の時代に入りました。
地域福祉を支えるために各施設が果たすべき役割は何か、
栃木県老人福祉施設協議会の大山知子会長に聞きました。

大山知子会長
栃木県老人福祉施設協議会の会員構成や活動内容など、概要を教えていただけますか。

 昭和40年に設立された古い歴史のある協議会です。栃木県内の社会福祉法人および市町などが運営する老人福祉施設で組織されており、会員は平成24年12月現在で186施設です。「老人施設の増進と県内の老人福祉施設相互の連携を図り、その健全な発展を期する」ことを目的に掲げています。施設の種類としては養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、ケアハウス、デイサービスセンター、ホームヘルパー事業所、グループホームなどの老人施設が加入しています。
 毎年、事業計画をつくり、それにのっとって老人福祉事業の調査研究、職員の研修並びに処遇改善、施設運営管理等の調査研究などの各種の事業に取り組んでいます。
 一般向けには、毎年11月11日の「介護の日」の前後に、介護に関する啓発を目的にしたイベントを実施しています。平成24年は11月10日にとちぎ健康の森で、福祉機器の展示、施設介護の発表会、福祉に関連する講演会、コンサートなどを組み合わせた催しを開き、1000人を超える来場者でにぎわいました。また、会員向けには、種別および全体的な課題についての研修会を月1回は開いて研さんに努めるなどしています。

日本では急速に高齢化が進んでいます。施設を運営される立場から、現在の状況をどのようにとらえておられますか。

「介護の日」イベント

 介護保険の制度が発足してから12年を経過し、状況は大きく変わりました。かつては老人福祉施設の利用については、行政が判断し、決定する「措置」でした。それが介護保険の導入によって「契約」となり、いろいろあるサービスから、利用者が選択できる仕組みに変わりました。
 極論すれば、昔はそれほど「経営する」という意識を持つ環境ではなかったのですが、介護保険制度がスタートしてから、株式会社などさまざまな業種体が参入することになり、競争原理が働くようになりました。こうした環境の変化を受けて、社会福祉法人立として運営している私たちの事業体は、どのような立ち位置で県民の皆さんに福祉サービスを提供していくのかが問われる時代となりました。
 現在、深刻な問題は人材不足です。利用者の方々が福祉施設や在宅サービスに対して求める質は年々高くなっています。私たちもそれにできる限りお応えしたいと思っていますが、介護人材不足の時代で大変難しいのです。私が運営する社会福祉法人「蓬愛会」の介護福祉専門学校を含めて、県内のいずれの福祉系の専門学校も入学者が少なく、定員割れの状態が続いています。医師や看護師不足が言われますが、介護従事者も大きく不足しているのです。
 重労働で大変だというイメージが先行してしまった現状を打破し、これからの担い手を確保していくことは、私たち業界団体としての緊急の課題となっています。確かに人が人のお世話をするという全人的なかかわりが介護ですので、決して楽ということではありません。しかし、何よりも人間の尊厳を大切にし、自分の人間性も高められるこの仕事は、従事してみれば、これほど崇高でやりがいのある職業も少ないと思います。

国の政策は在宅介護の方向に向かっているようです。そうした中、施設が果たす役割をどうお考えですか。

 在宅、施設のどちらかではなく、両方ともに必要不可欠だと思っています。利用者の皆さんにいろいろな選択肢から選んでいただければいいのではないでしょうか。
 ただ、その中でも私たち施設としては、地域福祉の核になっていきたいと考えています。〝施設にどんどんお入りください〟ではなく、施設が中心になって、その地域がどのようなケアを組んでいくのかというシステムづくりの母体となるということです。在宅での介護が難しくなった時には、例えば背後には特別養護老人ホームがある、というような安心感を与えることができる存在でありたいと思います。
 そのためには地域の中で施設がやっていることの「見える化」を進めていかなければなりません。介護保険制度のスタートによって選ばれる時代になりましたので、その介護の内実が問われています。専門職として提供している質の高い介護を、一般にもっと知ってもらう努力が必要です。
 協議会では「介護力向上研修会」という会を開いています。これは科学的な介護実践(おむつゼロ・骨折ゼロ・拘束ゼロ・褥瘡ゼロ・胃ろうゼロ)の研究発表をし、ケアのレベルアップをはかるものです。
 例えば、重度要介護者になりますと「おむつ」をすることが当たり前のように思われてきました。しかし緻密な状態把握・記録・分析をし、それぞれに合ったケアを行えば、「おむつ」をはずすことは可能なのです。「おむつ」がはずれることによって、本人の生きる意欲、尊厳が呼び起こされ、介護する人たちの達成感にもつながります。
 このように、画一的な介護から個々人を尊重した介護へつなげていくことが大切です。
 人としての尊厳を保ちながら、生の最終章を施設で迎える「みとりのケア」も重要になります。老衰まですべてを医療に任せるというのは、少し違うのではないかと思います。本人や家族、医療関係者、施設関係者の十分な連携を前提に、施設での終末にどう取り組むか、そこには人の死をきちんと受け止める力のある専門性の確立が求められます。
 高齢者を単に預かってお世話をするのが施設の役割ではないということです。こうしたことへの取り組みも、あまり一般には知られていないかもしれません。

今後ますます高齢化が進んでいくことは確実です。将来に向けての課題をどうお考えですか。

 今、全国に300万人、栃木県でも3万9000人の認知症の方がいると言われています。こうした長生きの結果を、果たして“負”ととらえていいのでしょうか。
 認知症は介護の仕方、環境づくりによって大きく違ってきます。医療的な治療は別にして、日々の生活に私たち専門職としてどうかかわるか、そのあり方が強く求められています。そのための知識をきちんと蓄えた上で、どう支援していくかを考える必要があります。
 住み慣れた地域で暮らしていく「地域ケア」に向けて、住民の理解を深めていくために、施設が果たすべき役割が必ずあるだろうと思っています。地域での相談窓口として地域包括支援センターがありますので、連携を取りながら施設が後方支援ができればと考えています。
 民間の会社組織の施設などが参入してきて、従来の社会福祉法人と併存するようになりました。利用者にとっては、経済状況や考え方などによって選択が増えることはいいことだと思います。ただ、運営や経営の違いによって、福祉サービスの内容に格差があってはいけません。
 協議会はそれまで社会福祉法人立の施設しか加入できなかったのですが、門戸を広げ、研修等に民間企業も参加できるようになりました。
 今後は相互に交流を進め、質の高いサービスを提供できるよう努めます。利用する方々もぜひとも、自分に合った施設をきちんと見極めることができる目を持っていただきたいと思います。


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