福祉講座(三)自宅で介護する

専門家に相談し諸制度を上手に活用

肉親を自宅で介護しなければならない現実に直面した時、
家族は不安でいっぱいになります。
どのような体制づくりが必要なのでしょうか。
準備から日常の介護までいろいろな方法を考えてみました。

介護の事態に直面した時注意したいこと。
病院の「退院支援室」などで相談を

 家族の介護をしなければならないという現実は、いつ誰の身に起こっても不思議ではない時代になりました。これに家族だけで立ち向かっていくのは大変なことです。まだそうならないうちに介護保険の仕組みやサービスを把握しておくとともに、行政の窓口などの情報を集めておきましょう。
 また、万が一の時の親族間の連絡体制などのネットワークをつくり、スムーズに対応できる準備を整えておくことが大切です。
 しかし、そうは言っても忙しい身。突然、そんな事態になったら―。
 介護の必要性はたいていの場合、高齢者が体調を崩し、入院したり通院したりするところから生じてきます。入院した場合、急性期で治療が必要な時期は、当然、病院で過ごすことになりますが、それが過ぎて症状がある程度安定してくると、退院して自宅などで介護をする、ということになります。多くの人は何から手をつければいいのか、ここで戸惑います。
 最近の病院の多くには「退院支援室」あるいは「地域連携室」などの名称がついた部署があり、退院後のさまざまな問題の相談に乗ってくれます。ここには「医療ソーシャルワーカー」という立場の人がいます。患者が地域や家庭で自立した生活を送ることができるよう、社会福祉の立場から援助する専門職です。
 職務としては 一.療養中の心理的・社会的問題の解決調整援助 二.退院援助 三.社会復帰援助 四.受診・受療援助 五.経済的問題の解決調整援助 六.地域活動などを行うことになっているので、まずはここで率直に相談してみるといいでしょう。心理的な不安のみならず、経済的な面でも本人や家族と一緒に考え、解決策を探ってくれます。
 入院中、急性期を過ぎてある程度容体が落ち着いてきたら、病院にいるうちに要介護度の認定の申請をしておくがことが望ましいでしょう。
 要介護度の認定には訪問調査や介護保険システムによる一次判定や介護認定審査会の審査(二次判定)など、約1カ月くらいの期間がかかるため、退院後の申請となると、保険の利用に支障を来すことになりかねません。入院中なら認定する側も身体状況などを医療関係者から聞き取れるため、的確な判定がしやすいという利点もあります。
 入院する時と退院する時では状態に変化がある可能性もありますが、一度認定を受けておくと、あとから修正するのはさほど難しくなくできます。申請先は市町役場かその出張所です。この手続きは本人かその家族が行うことが原則です。

最近はさまざまな機能がついた介護用品がそろっています

 退院後、自宅で介護することを決めた場合、家の中の環境を整えておくことが大切になります。自宅は当然のことながら、病院での環境とは大きく違います。
 帰宅してからの生活スタイルをよく考え、ベッド・トイレ・スロープ・お風呂・食事の提供の状況などをできるだけ細部にわたって検討し、必要なものをそろえておきます。介護保険によって1割負担のレンタルで使えるものも多いので、上手に活用しましょう。
 さて、実際に介護が始まってからはどうすればいいでしょうか。家族を一生懸命に世話したいという気持ちはとても大切ですが、そればかりが先に立つと心身ともに疲れてしまい、介護する側、される側双方に大きな重荷になってきます。特に認知症のお年寄りを介護するような場合には、お互いに深刻な事態をひき起こしかねません。介護保険で使えるサービスなどを有効に活用して、できるだけ負担を抱え込まない工夫をしましょう。
 介護する立場にある人が仕事を持っているような時には(むしろ今後はそのようなケースが大半になると思われますが)、介護休暇を使うことも考えられます。ただ、休めるのは3カ月間で、介護給付金の支給は賃金の4割となるので注意が必要です。現実的には3カ月で介護状態から脱することは困難と思われます。そのまま自分だけの手で介護を続けようとすると、いずれ限界を迎えることになりかねません。
 他の介護者と協力体制をつくり、さらに、各種サービスを受けるための調査、情報収集を行い、十分に体制を整えることを考えましょう。介護保険だけでなく、ほかにも有効な制度がないかなどにも目配りします。
 むしろ、介護そのものはプロに任せるというくらいに割り切ったほうがいいかもしれません。「楽をする」ということに、どこか罪悪感を持つ人がいるかもしれませんが、家族が笑顔になることは介護される側にとっての安心にもつながるのです。

成年後見制度とは

 平成24年の介護保険の改正では、「認知症対策の推進」もポイントの1つに盛り込まれました。
その財産や権利を保護するために、幾つかの制度が設けられています。
 成年後見制度は、認知症、知的障がい、精神障がいなどにより、判断能力が不十分になったり、なくなった時に、申立人による申し立てによって、家庭裁判所が成年後見人等を選任し、その人に代理権、同意権、取消権を付与し、本人の生活を保護、支援する制度です。本人の判断能力の程度によって判断能力が不十分な人の場合の「補助」、判断能力が著しく不十分な人の場合の「保佐」、判断能力を欠く人の場合の「後見」に分かれます。
 日常生活自立支援事業(愛称「あすてらす」)は、認知症、知的障がい、精神障がいなどにより、自分だけでは福祉サービスの内容がよく分からず、福祉サービスを利用するに当たって、契約をする自信のない場合や日常的金銭管理がうまくできない人が利用できます。

いろいろな制度を活用して負担を軽くする。
小規模多機能ホームの「のずの里かいどう」

 今後はさらに高齢化社会に拍車がかかって、平成25年には総人口に占める高齢者の割合は、3割を突破するとされています。
 介護に関する国の政策は、病院や施設での介護から、自宅や地域での介護へと急速にかじが切られています。特別養護老人ホームなどは、現在でも多数の入所待ちの状況が日常化していますが、病院も施設もなお一層、受け入れが困難になることは目に見えているからです。

獅子舞の訪問。獅子頭を操るのも高齢者

 こうした状況を踏まえ、自宅での介護や看護が少しでも進むよう諸制度の整備が進められています。自宅にいながら施設と同じような介護を受けることができれば、これらの問題の解消にもつながります。
 平成24年には介護保険の改正が行われ、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができるよう医療・介護・予防・住まい・生活支援サービスを切れ目なく提供する地域包括ケアシステムの実現がうたわれました。
 住み慣れた地域での高齢者介護を実現する施設として、最近、注目を集めているのが、地域密着型の「小規模多機能ホーム」です。

そば打ちも楽しい催しです

 介護保険に基づくデイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所生活介護)、訪問介護などは、従来もそれぞれ個別に行われてきました。
 平成18年度の介護保険の改正によって、これら「通い」「泊まり」「訪問」の機能を複合的に持つ「小規模多機能ホーム」が制度化されました。まだすべての地域に整備されているわけではありませんが、自宅の近くにあって気軽に利用できる施設として活用され始めています。
 利用できるのは市町の介護認定を受けている人で、各施設への登録が必要になります。登録者は20数人の少人数で家族的な雰囲気。登録者の多くは近くに住む人同士なので親近感があります。地域のご近所付き合いの延長の感覚で利用できるわけです。
 「通い」を中心に、「宿泊」と「訪問」の各機能を必要に応じて組み合わせ、一人ひとりの事情に合わせて、時間や曜日などを〝オーダーメイド〟で決めることができる柔軟性が大きな特長です。また、いつも顔なじみの職員が対応してくれるのも安心感があります。

細川しづ子さん

 何よりも心強いのが、24時間、365日利用可能であること。「夜中にベッドから落ちた」などの緊急事態にも臨機応変に対応してくれます。介護サービス料(介護保険料自己負担)は月額定額料金です。
 「小規模多機能ホーム」の一つで平成23年にオープンした「のずの里かいどう」の管理者で主任介護支援専門員の細川しづ子さんは、「訪問の時にはいつも同じ職員がお伺いしますので、特に認知症の方々には安心していただけるようです。地域密着で連絡も取りやすいので、自宅での介護と組み合わせてもらえればと思います。地域にあって何でも気軽に相談できる存在になれれば」と話しています。
 地域との連携を強めるため、「のずの里かいどう」では定期的に「運営推進会議」を開いています。地元の人たちにこの会議に参加してもらい、情報を交換・共有することで「暮らしやすい」地域づくりを目指しています。会議は地域と施設の〝つなぎ役〟を果たしています。
 医療的な側面でも自宅での介護に厚くなってきました。特に自宅での介護に不可欠な役割を果たしている医療機関、訪問看護師、介護関係者などによる「地域連携」の動きが徐々に進んできました。
 病院でやっていたことを在宅でもきちんとできる体制を整えるため、訪問看護師、ケアマネジャー、病院がカンファレンスを開いて「地域連携計画」を作成すると、診療報酬の点数が加算されるようになり、情報の共有化が強まっています。また、退院日や一時外泊への訪問看護にも点数が付くようになり、よりきめの細かな在宅での看護が可能になりました。

阿部フミさん

 「今回の法改正では在宅介護への支援はかなり強化されたと思います。訪問看護師の数が足りないのが悩みですが、今後、ますます重要性は高まってくることが予想されますので、私たちの仕事をもっと理解していただけるようPRに努め、仲間を増やしていきたいと思います」と訪問看護師の阿部フミさんは話しています。
 今回の改正で、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービス」が創設されました。日中・夜間を通じて訪問介護と訪問看護を一体的に、またはそれぞれが密接に連携しながら、定期巡回訪問と随時の対応を行うものです。
 中重度の要介護者の在宅での生活を可能にすることを目的にしています。必要な時に30分以内に駆けつけ、訪問介護看護を行うサービスです。まだスタートしたばかりで、普及はこれからですが、円滑に運営が進めばかなり頼りがいのある制度になりそうです。

介護保険を使って家の中を使いやすく
介護保険が使える手すりの取り付け

 各種のサービスを利用することがソフト面だとすれば、家の中を介護しやすく、また、暮らしやすくリフォームするハード面も重要です。トイレや入浴に際して手助けが必要だった人が、例えば手すりをつけることによって、自分だけでできるようになることもよくあることです。その結果、生きる自信にもつながっていきます。
 しかし、手すりを取り付けたり、スロープを設けたりするのは、素人では難しいものです。自己流で改修するとかえって危険な場合も出てくるので、工事に当たっては専門業者に任せるようにしましょう。
 介護保険では 一.手すりの取り付け 二.段差の解消 三.滑りの防止及び移動の円滑化等のための床材の変更 四.引き戸等への扉の取り替え 五.洋式便器等への便器の取り替え 六.一~五の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修の6項目について、限度額の範囲内で改修費用が支給されます。
 原則として一生涯に20万円を限度として、かかった費用の9割が支給され、自己負担は1割ですみます。介護保険を利用するので、介護認定の申請が前提になります。認定を受けずにサービスを利用してしまうと、費用は支払われません。また、改修前に市町に申請し、事前審査を受けることが条件になっています。
 住宅の改修はしてしまうと簡単にやり直しができないので、事前の綿密な打ち合わせが欠かせません。介護が必要な人が実際に生活する中で、どのような動きをするのかをよく観察し、リフォームする個所を決める必要があります。また、手すりなどは、壁の中の状態が外からは見えないという要因も大きく関わってくるので、専門家の的確な判断が必要になってきます。
 リフォーム後のトラブルはけっこう多いもの。業者の選定に当たっては、きちんとした福祉の知識を持つ建設業者を選ぶようにしましょう。宇都宮市にあるとちぎ福祉プラザの中にはNPO法人によるモデルルームが開設されていて、こうした改修や福祉機器類の購入の相談に乗ってくれます。
NPO法人
「とちぎノーマライゼーション研究会」
(電話028・627・2940)


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