福祉講座(一)新しい時代の住まい方

これからの「人にやさしい住まい」とは

誰にとっても満点の、究極の住宅は存在しません。
家族みんなで「どんな家がいいかな」と話し合う中から、
幸せな、人にやさしい住まいが生まれてきます。
そんな住まい方のヒントを、ご紹介します。

あなたにとっての「やさしさ」を考える。

 「人にやさしい住まい」は、最近の家づくりで最も重要なキーワードのひとつです。さまざまなハウスメーカーが、独自の工夫を凝らした「やさしさ」を提供しています。住宅雑誌の特集を読んでも、やはり「どうすれば人にやさしい家を造ることができるか」といった視点の記事が、目立っていますし、読者にも好評なようです。
 「人にやさしい」とは、ことばを代えれば「住みやすい」ということです。
 ですから「人にやさしい家」を考えるということは「あなたやあなたの家族が、いちばん住みやすい家」を考えることです。
 それは「コミュニケーションの取りやすい家」であったり「バリアフリーの家」であったり、いろいろな「住みやすさ」が考えられます。家族構成によっても、家族の年齢構成によっても、地域の環境によっても、その「住みやすさ」は変わってくるでしょう。ですから、誰にでも当てはまる答えは、存在しません。けれども「自分にとって、自分の家族にとっての、いちばん良い『住みやすさ』『やさしさ』は何だろう」と考え、答えをだすことは、できるでしょう。そこで、そのお手伝いができるかもしれない、いろいろなキーワードをご紹介しましょう。

《間取りを考える》
家族のコミュニケーションが取れる間取りとは。
住まいの空間の種類

 自分の家を持とうと考えた時、いちばん頭を悩ませるのは、言うまでもなく「間取り」でしょう。
 一から設計して作る注文住宅はもちろん、建売住宅であっても、どのモデルを選ぶか考える場合に、外観だけでなく間取りも大きな要素でしょう。
 さらに中古住宅やマンションであっても、できるだけ希望に添った間取りのものを、選びたいと考えるものです。
 間取りを考える際の重要なポイントは「動線」です。そこに住んだ時、家族が日常どのように動くかを考えることが、大切です。
 家の中身は、大きく2種類に分けられます。
 一つは個人の空間です。書斎や夫婦の寝室、子ども部屋などがこれにあたります。もう一つは共有の空間です。キッチンやリビング、トイレ、浴室などは、こちらです。
 家の中で生活する時、私たちは必ず「個人空間」と「共有空間」を、頻繁に出入りしながら移動することになります。
 この「移動」には、「家事のための移動」や「通勤、通学のための移動」「衛生(トイレ、入浴、手洗いなど)のための移動」など、さまざまな目的があります。
 そこで、これらの移動の道筋=動線は、なるべくクロスしないように考える必要があります。
 とはいっても、あまり見事に動線を仕分けてしまうと、家族同士顔を合わせる機会が、極端に少なくなることもあり得ます。ひとつの家に住む人同士が、すれ違ってばかりいるのは、決して健全なことではありません。ですから最近では、動線をわざとクロスさせる(もちろん、日常生活が混乱しないように、です)手法もあります。
 もっとも分かりやすいのは、ほとんどの部屋をリビングを経由しないと行けないような間取りにすることでしょう。こうすれば、否応なく全員が鉢合わせすることになります。現実には、そんな間取りは使いづらくてしかたがありませんから、あくまで例です。

動線よりも優先したいコミュニケーションの充実。

 せっかく整理された動線を、もう一度交差させることで、無駄な動きを創りだしているようですが、その「無駄」の中に「住みやすさ」「人へのやさしさ」があります。
 家族というのは、ややもすると他人よりコミュニケーションが乏しくなりがちです。「親だから、子どもだから、ことばなど交わさなくても分かっている」と思いがちですが、たとえ親子でも独立した人間ですから、すべてを分かり合うことはできません。日常を共に過ごすからこそ、他人よりももっと、ことばを交わすことで、親密感を高めたり、互いの「思い」を理解し合うことが重要なのではないでしょうか。そういう「ふれあい」を生み出す間取り、動線の取り方が「住まいづくり」には、いちばん大切なことなのです。
 各部屋の間取りのチェックポイントについては、表1にまとめました。それぞれの部屋の用途や主に利用する人、利用の仕方などを考えながら間取りを作っていくことを忘れないでください。

《バリアフリーを考える》
互いを気遣う心が最大の「バリアフリー」。
バリアフリー住宅のポイント

 「バリアフリー」というと「高齢者、障がい者向け」と勘違いしている人が、まだまだ多いようです。もちろん、主たる目的はそういった方をサポートすることです。けれども、バリアフリーの考え方を住まいに導入することで、家族全員が住みやすくなるのです。
 バリアフリーというと、まず「段差のない家」と思い浮かぶ人が多いでしょう。文字どおり「バリア(障害、障壁)」を「フリー(取り払う)」にするわけです。けれども段差だけがバリアではありません。室内の明るさも、スイッチなどの器具の位置も、室温調整も、すべてがバリアになり得ます。
 歳をとると、目が弱ってきます。若い人は平気な暗さでも、お年寄りには暗過ぎて、ちょっとした段差につまずいたり、簡単な作業にも苦労したりします。一般に、適正な照度は650~750ルクスと言われていますが、お年寄りにはもう少し明るめにした方がいいでしょう。
 足腰が丈夫な間は、立ったり座ったりも苦痛ではありません。でもお年寄りや障がいを持った人は、床に落ちた何かを取ろうとする程度の動きでも、大変な苦労だったりします。ですから、電源プラグを頻繁に抜き差しすることの多いコンセントは、床近辺ではなく、40センチ程度上にしておくと、誰にも使いやすい環境となります。
 逆に電灯のスイッチなどは低めの位置(車いすの人が操作できる程度の高さ)で統一するのがいいでしょう。
 うっかりしがちなのは、廊下や玄関、部屋の入り口の広さです。車いすのまま出入りするためには、最低でも70センチは必要です。廊下は、手すり設置などを考慮すると、80センチ以上の幅が欲しいところです。

表1 主な間取りチェックポイント


家族みんなで話し合う「過程」が大切。

 廊下を考えるなら、階段にも注意が必要です。段差解消はバリアフリーの「きほんのき」ですが、階段は段差がなければ機能しません。足腰の弱った方でもできるだけ楽に上り下りできる階段は、どういったものでしょうか。
 まず、完全に歩けない方や、かなり弱っている方の場合は、階段に電動リフトをつけるという考え方があります
(さらに進めると、家庭用エレベーターの設置も考慮していいでしょう)。
 しかし日常生活を送ることができる健常者でしたら、手すりの設置や、段差を少なくしたり、段の面積を広めにとることで「ゆっくり、しっかり上り下り」ができるようにするといいでしょう。
 もっとも、健康な家族も使うわけですから、あまり段数を増やしたり、面積を広げすぎるのも考えものです。そのあたりはハウスメーカーや建築士など、専門家のノウハウを借りるのがいいでしょう。
 トイレのドアは、うっかり内側へ開く構造にしがちですが、引き戸タイプか、もしくは外に開くタイプにしましょう。高齢者は(特に血圧が高い人などは)トイレで気分が悪くなったり、倒れたりするケースが少なくないのです。その時に内開きのドアにしてあると、倒れた体につかえて開けることができず、手当が遅れてしまう可能性が高いのです。
 付け加えると、トイレ内に緊急通報装置(ブザーなど)をつけておくことを、お勧めします。夜中、家族が寝静まった時にトイレに起きた高齢者が、そこで倒れることは、しばしばあります。意識さえあれば助けを呼べる仕組みを、ぜひ備えてください。
 このように、考え始めるとさまざまな「バリアフリー」ポイントがあります。表2に代表的なチェックポイントをまとめましたので、これを基に考えてみてください。
 実のところ、みんなでこうして「どこをどうすれば、バリアフリーになるか」を考える、その過程も、大変に重要です。おじいちゃんやおばあちゃんが、少しでも生活しやすい空間にしてあげたいと思う心が、互いのことを思いやる思考の訓練になるのです。家族の「住みやすさ」に気を配ることができれば、お互いにやさしい気持ちを持つことができます。「人にやさしい」住宅を考えれば「人がやさしい」住まいを生み出すことが、できるのです。

表2 バリアフリーのチェックポイント


《福祉施設や二世帯住宅を考える》
「やさしさ」を支えるメーカーの先進的な取り組み。
スタッフと寄り添うリビングダイニング

 こうした「人にやさしい住まい」への取り組みは、各ハウスメーカーでも実に熱心に行っています。現在、ほとんどのハウスメーカーの家は「バリアフリー」「高気密・高断熱」「エコ」を実現しています。その点で、恵まれた時代に、私たちは生きていると言えるでしょう。
 たとえばある大手のハウスメーカーでは、それまで培ってきた長い歴史と実績、技術、優れたノウハウを生かした、高齢者向けの住宅や施設を開発しています。特に、デイサービスやデイケア、ショートステイ、居宅といった介護施設のほか、老人ホーム、ケア付き賃貸住宅、グループホームなどの地域の福祉施設において豊富な実績を持っています。
 同社では、それらの高齢者施設に生活する人やそこで働く職員が、いつでも快適さを感じられる生涯住宅の考え方に基づき、健康で安心・安全な「快適性」、住宅の長寿命化、光熱費削減を実現する「経済性」、さらにCO排出量削減・ゼロエミッションを推進する「環境配慮」をバランスよく満たす建物づくりを進めています。そこでは緑豊かな外構の設置も重要なポイントになっています。
 こうした考え方やノウハウが、今度は戸建住宅はもちろんのこと、アパートやマンションといった集合住宅など、一般の住宅にもフィードバックされ、安心して住める「人にやさしい家」を創りだしているのです。
 もちろん、他のメーカーでも、それぞれ独自の視点から「人にやさしい住宅」「高齢化社会に対応できる住宅・施設」を実現させています。だからこそ、お客様一人ひとりのニーズをくみ上げた家づくりが可能になっているのです。
 このところ普及がめざましい「二世帯住宅」も、メーカーが力を入れて商品開発を進め、「人にやさしい」度合いを強めています。

 独自のパンフレットを発行するなどして二世帯住宅づくりに力を入れている別の大手ハウスメーカーは、その中でさまざまなタイプの二世帯住宅を紹介しています。
 二世帯住宅には、住まいを完全に分離して、各世帯が独立した生活空間を持つ「分離同居」と、リビングやキッチンなど生活空間の一部を共有する「共有同居」、そして二世帯が一つ屋根の下で暮らす「融合同居」があります。それぞれにメリット、デメリットがありますが、同社のパンフレットではそれぞれを詳しく解説し、どう考えどう選んで行ったらいいかまで、分かりやすく説き明かします。
 そこには自社の意見を押し付けるのではなく、お客様のニーズに自在に対応し、協力して満足の行く二世帯住宅をつくり上げる姿勢が貫かれています。
これができるのは、二世帯住宅だけでなく、「住まい」全般に対する積みねた知識と経験があるからでしょう。

2世帯住宅のリビングダイニング

 二世帯住宅も集合住宅も、これからさらに進むことが予測される高齢化社会において、重要な役割を果たすものです。これらはかけ離れたもののようですが、住んでいる人同士のコミュニケーションを促すことが求められる点で、同じ性質を持っています。単に「同一地域に居住する」のではなく「いっしょに暮らす」しっかりした関係が求められます。
 「二世帯住宅を建てたけど、親とうまくいかない」「グループホームで、皆と仲良くやっていけない」そんなことにならないよう、メーカーはノウハウを傾注しています。そこに住む私た
ちも、常に「人にやさしい」気持ちを忘れないことが、大切ではないでしょうか。
 「人にやさしい住まい」というキーワードで、さまざまなポイントを駆け足で見てきました。これをきっかけに、ぜひご自分でも考え、また家族でも話し合ってみてください。


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