福祉講座(四)福祉車両 種類や装備・選び方

ここだけは押さえておきたいポイント

「福祉車両」は意外に身近な存在。

 「福祉車両」ということばから、どんな車を想像しますか?
 多くの人は「障がいを持った人が使うもの」というイメージを持っていると思います。確かに用途としてはそれで間違っていませんが、高齢社会が到来した今、「障がい」や「介護」が私たちのごく身近なものになっているのではないでしょうか。
 家族が、知人が、ある日突然介護の必要な体になってしまった時に、まず困るのは「移動」です。今迄自分で車を運転したり、公共交通を利用していた人が、これからは誰かの補助がなくては、場合によると家の中でさえ移動する事ができなくなってしまうのです。 そこまで深刻な障がいでなくとも、年齢を重ねれば、これまで何とも感じなかったワゴン車など車高の高い車への乗り降りが、負担に感じられるようになります。
 そう考えれば、福祉車両は割と身近な存在であることに気づくでしょう。明日は自分が、誰かのために運転しなければならないかも知れません。明後日は、逆に自分が乗せてもらう立場かも知れません。
 幸い、近年はさまざまなタイプの福祉車両が自動車メーカーから発売されています。また、市販車を改造して福祉車両にしてくれる会社も、出てきています。中古市場に出てくる数も増えつつあります。
 ですから「うちには関係ないよ」と言える今のうちに、ぜひ、福祉車両の知識をつけておいてください。

福祉車両にはどんな種類があるのか。

アーム格納式リフター車

 福祉車両にはいろいろな種類があり
ますが、大きく分けると、①障がいを持つ人を介護や送迎しやすいような装備を持つ車両②体に障がいを持っている方が、自分で運転できるように、運転補助装置などをつけた車両③自分で歩くのが少しつらく感じる人が利用する電動カート―などを挙げることができます。
 特に①と②が、一般に「福祉車両」と呼ばれています。車いすのまま乗り降りできる車両は①、ハンドルなどに補助器具をつけている車両は②になります。
 高齢社会を迎え、①から③のいずれも、日常的に目にするようになりました。①のタイプは老健施設や福祉施設などが購入し、業務で使用する場合が多いようです。もっとも最近では、ワンボックス車など比較的小さい車両の場合は、個人で購入することも増えつつあります。一方②は逆に個人所有が中心です。運転する人の体にフィットさせることが必要となる場合もあります。
 こうした車は、現在ではほとんどの自動車メーカーがラインナップに加えています。トヨタ自動車であれば「ウェルキャブ」、日産自動車は「ライフケアビークル」、ダイハツ工業は「フレンドシップ」といった具合です。もちろん、名前をつけていないメーカーも、使いやすく便利な福祉車両をいくつも発表しています。
 さらに、市販車を改造して福祉車両にしてくれる企業もあります。宇都宮市関堀町の(株)メタルワーカー・エスイーエーでは、さまざまなパーツを組み合わせて、①②のどちらのタイプも注文を受けて改造しています。健常者が障がいを持った場合など、使い慣れた車で移動できれば、精神的な負担も少ないでしょうし、必要な部分のみを本人にぴったり合った形で改造することも可能です。

回転シート、電動リフトなど多彩な装備。

 福祉車両の装備について、もう少し詳しく見てみましょう。
【回転シート】
 シートが外側へ回転する(車種によってはスライドして前に飛び出る)ことで、車いすからの乗り込みや、足腰の不自由な方の乗り込みを容易にする仕組みです。
 多くのメーカーでは、電動で助手席や後部座席が動くようになっています。介護する人が1人でも、苦労せずに障がい者を乗せることができる補助をしているのです。
【リフトアップシート】
 シートが回転するとともに角度や高さも変化させることができ、回転シートよりさらに容易に車に乗り込むことができます。これも回転シート同様、助手席や後部座席で使われています。
 また、変わったところではトヨタの「サイドアクセス車」があります。これは着脱シートか専用車いすを使って、座ったまま助手席などに乗ることができるようにしたものです。介護する側にとっても、される側にとっても、便利な機能です。

旋回グリップ

左アクセル装置

カロリフト6900

電動昇降のウェルカムシート車

【車いす仕様】
 車いすのまま乗降ができます。さまざまなタイプがありますが、多くはワゴン車の後部が開き、スロープやリフトなどを使って乗り込むやり方です。
 スロープ式の場合は、車の中に収納されているスロープを電動や手動で引き出し、そこから車に入るものです。リフト式は、電動でせり出したリフトに車いすごと乗ると、そのまま収納されるものです。
 スロープ式は介助者が車いすを押してあげる必要がありますが、比較的小さな軽自動車でも設置しやすいため、個人の購入も多いようです。
 一方リフト式は電動の駆動部分が大きいこともあり、ハイエースやキャラバンといったワゴン車などをベース車両とすることがほとんどです。購入も、介護施設の業務用途が多いそうです。 このほか、日産では軽度の障がいを持つ人をサポートする装備として、ステップを一段増やして乗降しやすくしたり、加えて手すりもつけることで体重を支えながら乗降が可能な「ステップタイプ」「送迎タイプ」などがあります。障がい者だけでなく、高齢者全般に役立つ装備と言えるでしょう。
 介護用の福祉車両のほかに、障がい者が自分で運転するための福祉車両もあります。たとえば片腕だけしか利かない人をサポートするため、ハンドルにグリップをつける車両があります。また両足が利かない人でも運転できるよう、アクセルやブレーキを手で操作することが可能な車両もあります。
こうした運転補助の装備は、メーカーでもラインナップしていますが、障がい者が自家用車を改造するケースも多いようです。その人のニーズに合った改造で、安全で楽しいドライブを実現してくれます。

小さくて便利な福祉車両も。

助手席リフトアップシート車

 福祉車両というと、ついワゴン車やミニバンのようなサイズを連想しがち
ですが、最近では軽自動車や小型車でも、便利に使える車種がそろってきています。
 たとえば日常的に車いすが不可欠な人でも、回転式シートであれば、乗る時に少し補助してあげるだけで大丈夫なこともあります。本人は助手席に乗ってもらい、車いすはたたんで後部に収納すれば、小型車でも十分に役立ちます。
 トヨタの「ウェルキャブ」ではアクアやヴィッツ、日産の「ライフケアビークル」であればマーチやノートなどの2ボックス小型車で、回転シート(アクア、マーチなど)やリフトアップシート(ヴィッツ、ノートなど)がラインナップされています。
 またダイハツのフレンドシップシリーズは、ラインナップがすべて軽自動車がベースですが、スロープ式の車いす仕様車や、乗り降りに便利なリフトアップ車が用意されています(車いすは、安全のため専用仕様となっています)。
 こうした小型車は、荷物はあまり積めませんが、その分小回りがきいて、病院への送迎でも玄関の近くまで寄せられますから、使い勝手がいいでしょう。

どんなタイプが必要か考える。

電動ウインチのスロープ車

 福祉車両の購入を考える場合、家族全員で使う「メインカー」として購入するのか、介護目的(病院への移動など)だけに使用するのかは、大きなポイントとなります。
 家族全員で使う車であれば、家族の人数+介護関連機器(たとえば車いすなど)の全部を収納できるサイズが必要となります。
 介護目的中心のセカンドカーであれば、家族全員が乗る必要はありませんから、比較的小さな車でも対応できます。
 以下に、基本的なチェック項目を挙げてみます。
①何人乗りが必要なのか?
 普段は何人で乗るのか、最大は何人で乗るのかによって、サイズが違ってきます。
②主な用途は?
 介護用途か、普段はファミリーカーとして使うのかで、車種やサイズが違います。
③駐車場の有無
 何台分の駐車場を確保できるのかは重要です。1台しかなければ、福祉車両をオールラウンドで使うことになります。
④介護の度合いは?
 歩くのに支障がある程度であれば、回転シート式でも十分でしょう。ほとんど歩けない人を乗せるのには、やはり車いすごと乗せられるタイプが必要になります。
 「うちは家族が多いから、協力して乗り降りさせられるので、普通の自動車で十分」と、つい考えがちですが、いざ必要な時には家族がそろわなかったり、勝手が分からず逆に迷惑をかけてしまったりするものです。それに、乗る時には全員で手伝えても、降りる時には運転する人だけかもしれません。「家族が協力する」という気持ちはすばらしいのですが、機械化できるところはした方が、良い場合が多いのです。
⑤予算はどのくらいか
 予算によっては、新車ではなく中古車という選択肢もあり得るでしょう。
また自家用車を改造するという考え方も、あります。
⑥普段運転するのは誰か
 忘れられがちですが、案外重要です。運転があまり得意でない人が、いきなり大型のワゴン車を運転しなければならなくなるとしたら、どうでしょう?大変なストレスです。できれば、免許を持っている家族全員が安全に運転できる車を選びましょう。
⑦乗り心地はどうか
 これもまた、案外抜け落ちてしまう視点です。もちろん最近の日本の車に、極端に乗り心地の悪い車など、まずありません。けれども乗り心地とは「個人の好み」も大きく関わっています。同じシートであっても、ある人にとっては心地よいのに、別の人には体にどうしてもフィットした気がしないことも、あるものです。ですから、特に介護される人にとっての乗り心地を、きちんと確認することが大切なのです。
 これらの項目以外にも、各家庭の実情に合わせたチェックポイントがあると思います。家族全員で考えてみてください。

買う前にはぜひ試乗して確認を

 「福祉車両など買うのは初めてだから、どう考えていいか分からない」という方は、ぜひ販売店に相談してください。トヨタも日産もダイハツも、福祉車両に力を入れているメーカーや販売店であれば、ユーザーの相談に誠意をもって答えてくれます。その際、前項で書いたポイントを整理しておけば、役に立つでしょう。
 また、試乗の要望も、多くの場合可能です(行った当日ではなく、予約になる場合もあります)。カタログや説明だけでなく、できるだけ実際の車を体験してください。
 自家用車を福祉用に改造する場合は、工場のスタッフとじっくり話し合うことが大切です。細かいところをおろそかにせず、希望や要望をしっかり伝えましょう。そしてある程度決まったら、必ず見積もりをもらってください。発注前には「どこをどう改造するのか、どんなパーツをどのようにつけるのか」をきちんと書いた書類を出してもらいましょう。
 福祉車両を購入する際には、さまざまな助成制度も用意されています。これらについても、購入にあたってディーラーなどに相談し、なるべく活用してください。

フロントシートリフト車

サイドアクセス車

助手席スライドアップシート車

全自動リフタータイプ車
■主要メーカーの福祉車両情報サイト

トヨタ自動車
http://toyota.jp/welcab/
日産自動車
http://lv.nissan.co.jp
ダイハツ自動車
http://www.daihatsu.co.jp/friendship/


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