福祉講座(六)福祉の資格

福祉の仕事をスタートするために

高齢者が急速に増加し福祉の担い手が求められるなか、
やりがいを求め、福祉の仕事を目指す人たちも増えています。
福祉の仕事には実務経験を重ねながら資格を取得し、
ステップアップする道も開かれています。

第一歩は、職場体験
自分の適性を知ることから。

福祉人材・研修センター(とちぎ福祉プラザ3F)

 なぜ、福祉の仕事を目指すのでしょう。
 「親が介護サービスを必要とするようになり、日々、介護職の人たちとふれあうなかで、福祉の仕事や資格に関心が向いていった」
 「親をみとったあと、福祉の仕事がいかに大切かを実感した。親には生前十分な介護はできなかったけれど、福祉のこころで寄り添っていきたいと思った」
 福祉・介護の仕事や資格の取得方法などの紹介・相談を行う栃木県社会福祉協議会「福祉人材・研修センター」の小関和美さんは、いくつかの事例を紹介し、「家族など身近な人の介護をきっかけに福祉の仕事・資格に関心を持つようになった人たちが増えている」と話します。
 福祉の仕事と一口に言っても、さまざまな職場や仕事内容があり、仕事に就くために必要な資格も異なります。
 では、福祉の仕事の第一歩を、どう踏み出せばいいのでしょう。小関さんは「まず、福祉の仕事とはどのようなものなのか、理解を深めていただくことが一番です。実際に福祉施設でボランティアとしてかかわってみることをお勧めします。県社協でも、体験学習というプログラムを用意しています。そこで、自分の適性を知って自分に合う仕事、その仕事に就くために必要な資格を選んでいただくことが大切だと思います」と話します。
 「福祉サービスの利用者がどんな様子で一日を過ごしているのか、福祉施設のスタッフがどのような動きをしているのか、実際に見て、自らも体験してみる。そのことによって福祉の仕事を自分と重ね合わせることができて、自分にはできるのか、仕事としてやっていけるのかが見えてくると思います」と小関さん。
 これから福祉の仕事を目指そうとしている人に福祉人材・研修センターが勧めているプログラムが、「福祉職体験学習」です。栃木県内の福祉施設と連携し、福祉の仕事に興味・関心のある人(高校生以上)に、▽利用者との交流(話し相手、レクリエーションなど)▽利用者の介護、介助(食事・入浴・着替え・移動の介助など)▽作業補助(配膳・清掃・洗濯など)を体験する場、機会を提供しています。
 参加費は無料で、平日1日コース、週末(土・日曜)1日コース、2〜3日コースが設けられています。体験ができる協力施設は、県内各地の高齢者分野(特別養護老人ホーム、老人保健施設、デイサービスセンター、軽費老人ホーム)、障がい者分野(施設入所支援、生活介護、機能訓練、生活訓練、就労移行支援、就労継続支援)、児童分野(保育所、児童養護施設)約250施設。この中から希望の分野、施設を選択することができます。
 高齢者分野の施設で福祉職を体験した20代の男性は、同センターのアンケートに対し「以前の仕事に自分らしさを感じられなかったのとは逆に、とてもやりがいを感じ、利用者、その家族の皆さんのサポーターになれたらという強い想いを持って参加できた。今後は、資格取得や、知識・技術を身につけながら介護分野で働きたいと強く思った」と感想を記しています。
 このほか、同センターは、実際に福祉の現場で活躍している人の話を直接聞くことができる「福祉職スタート土曜講座」や、県内11のハローワークに「福祉のお仕事相談コーナー」(出張相談)を開設し、福祉の仕事や資格についての相談に応じるなどの取り組みを進めています。

福祉を正しく理解することで仕事の見方、仕方が変わる。

 福祉の分野で働きたいと考えている人たちにとって入り口となる仕事・資格と言えるのがホームヘルパー(訪問介護員)です。福祉人材・研修センターであっせんしている求人の数も、半分以上が介護の仕事ということです。
 ホームヘルパーとして介護保険制度のホームヘルプ事業に従事するためには、ホームヘルパー養成研修(1〜2級課程)を修了する必要があります。介護職員の基礎的な研修として認知されていて、介護職員の求人条件に2級課程の修了を条件とするケースが多くなっています。
 厚生労働省は、将来的に介護職員は基本的に介護福祉士とする方向性を打ち出し、従来のホームヘルパー養成研修に加えて施設の介護職員も対象とした新たな研修「介護職員基礎研修」を平成18年度に創設しましたが、同25年度からは、この基礎研修とホームヘルパー1級課程については、「実務者研修」に一本化される予定です。ホームヘルパー2級課程については、「介護職員初任者研修」と位置づけられます。
 また、介護職員基礎研修またはホームヘルパー2級の資格取得を希望する人を対象にした「介護雇用プログラム」が設けられています。プログラムの参加者は介護施設に1年以内の雇用契約で雇われ、施設で働きながら資格を取得することができます。
 介護職の国家資格には介護福祉士があります。求人においては、介護福祉士資格を条件とし、ヘルパーと比べ給与など待遇が違ってくるケースもあります。国家試験の受験資格は、介護の実務経験3年以上、または、それに準ずる人に与えられます。
 このほか福祉系の資格は、サービス利用者の生活全般の相談に応じ助言・援助、精神的な支援を担う相談援助の仕事で、社会福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)などがあります。
 また、保育、保健・医療の分野の資格がありますが、資格によっては本人のキャリアしだいで試験の一部が免除になるものなどがありますから、それぞれの資格の取得条件を把握しておくことも必要でしょう。
 小関さんは「福祉の仕事、社会福祉事業というものを正しく理解していただくことで、仕事の見方、仕方も変わってくると思います。利用者のためにする仕事なのですが、結局は自分に戻ってくる、自分が成長できる仕事でもあると思います」と話します。

福祉の職種と資格

ホームヘルパーを入り口にステップアップの道を開く。

小河信子さん

 宇都宮市の居宅介護支援・訪問介護事業所「在宅サポートこころ」(石塚けい子代表)の小河信子さんは、専業主婦からホームヘルパーとして福祉の世界に入り、その後介護福祉士の資格を取得、現在は、ケアマネジャーとして働いています。経験を積みながら資格を取得し、ステップアップしてきました。
 「母が自宅で祖父母を介護していました。介護保険制度がなかった時代で、介護の仕方も自己流でした。それを見ていて、私が介護する立場になったときのために介護技術を身につけていたほうがいいと思って、ホームヘルパーの資格を取りました。資格を取ったからには、働きたいと思いました」と小河さんは話します。

利用者に寄り添い、介護サービスを提供する
ホームヘルパー

 下の子どもは小学生。塾の送り迎えなど、まだ手のかかる時期でした。家のことをしたり、子どもの面倒をみながら、自由になる時間、2、3時間でも働けることができればと思い、比較的、自由が効く、在宅のヘルパーの仕事をパートで始めました。やがて、仕事の依頼が増え、小河さんがヘルパーとして働く時間も増えていきました。「せっかくの依頼を断るのは申し訳ないという思いもありましたし、サービスの利用者からの『また来てね』『ありがとう』の言葉に、仕事の喜び、達成感を感じていました」
 介護の実務経験が3年を過ぎた時点で国家資格である介護福祉士の資格を取得し、ヘルパーの指導などを担うサービス提供責任者(介護保険制度上登録ヘルパー10人につき1人などの規定により配置が義務づけられている職種)の仕事を任されるようになりました。その後、5年の実務経験でケアマネジャーの資格をとる条件を得て、資格を取得しました。小河さんの働きぶりを見てきた石塚代表は「真剣に仕事に取り組んでいれば、おのずとステップアップしていこうと考えるものです」と話しています。

介護の仕事

 日中は、ヘルパーの仕事。夜、家の仕事を終え、ゆっくりテレビでも見ようか、という時間を、ケアマネジャーの資格をとるための勉強時間に充てたそうです。試験の3、4か月前から1日2〜3時間の勉強を続けました。「試験を受けるからには、必死で勉強しました。中途半端な気持ちでは受からなかったと思います」と振り返る小河さん。
 「専業主婦でずっと家の中にいましたので、それだけに何か社会貢献したいという気持ちが強かったような気がします。実家の両親は祖父母が亡くなるまで自宅でみてきましたので、今度は、私が両親をみていこうと思っています。でも、まだ介護の必要がなく元気なんですよ」と笑います。
 石塚代表は、40歳のとき勤めていた会社が倒産し職を失ったことをきっかけに、ホームヘルパー2級を取得し、ホームヘルパーの実務経験がないまま、現在の事業所を立ち上げました。「生活のためにこの世界に入りましたが、この仕事を続けてきて心から良かったと思っています。たくさんの人生経験を積んできた人に接する仕事なので、いろいろなことを吸収できるし、考えさせられます。これほど大人にさせてくれる仕事はないと思っています。
 人生の最終章にかかわることになりますから、こころ動かされる場面にたびたび接します。日々輝くではないですが、毎日を、ありがたいと思って生きられます。この仕事に就いてなかったら、そういう感情は起きなかったと思います」と話しています。

介護の仕事に関する資格


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