福祉講座(五)介護保険を上手に活用

介護予防にも使える保険

介護保険制度が発足して12年。
急速な高齢化の中、その重要性はさらに高まっています。
受けられるサービスは多岐にわたり、
組み合わせによって相当きめの細かいケアが受けられます。

ケアマネジャーの業務を理解する。

星野智枝さん

 介護保険のサービスを受けるには、まず、要介護認定を申請しなければなりません。介護が必要と感じたなら、各市町の高齢者福祉の担当窓口で手続きを取りましょう。申請は本人や家族が行うことになっていますが、居宅介護支援事業者、介護保険施設などに代行してもらうこともできます。
 申請が受け付けられると各市町の調査員が訪問し、認定調査が行われます。このほか主治医の意見書が必要で、通常は市町役場から直接医師に依頼することになっています。こうして審査判定が行われ、約1カ月後に認定結果が通知されます。
 この後、本人に最も適したケアプランを作る作業となりますが、ここでその作成を行うのがケアマネジャー(介護支援専門員)です。認定された要介護度によって利用できるサービスが違ってくることは当然ですが、そのほかにもさまざまな要素が加わって、介護保険の仕組みはかなり複雑です。ケアマネジャーの資格は、保健・医療・福祉分野の専門職の資格を持ち、実務経験のある人が、試験と研修を受けて取得します。
 ケアマネジャーは本人や家族から状況を細部にわたって聞きとったアセスメント表をもとに、その置かれている立場を理解し、利用できる介護保険のサービスやその他の保健福祉サービス等を提案します。さらにサービス事業者やその他の関係機関などとの連絡調整も行います。まさに介護保険制度の中核をなす資格と言えます。
 ただし、サービスの内容を決定し、事業所と契約するのはあくまでも利用者本人です。最終的には本人が決定する権限を持っているわけで、さまざまな業者が介護分野に進出している現在、利用者の選択する目も問われるところです。
 「可能であれば、デイサービスや通所リハビリテーション施設などを何カ所か回ってみて、最も自分に合ったところを選択できればよいと思います。可能な限り自己決定ができるような支援こそ、その方の残存能力の活用、自己決定権の尊重でもあり、ご本人らしい支援につながるのです」と居宅介護支援事業所「ウィズケアサービス」管理者の主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)の星野智枝さんは話します。
 また、「日常の生活の中で困ったことが起きたためにサービスの利用を考えるわけですから、まずはそれを解決するところから始まります。ですが、本人と家族の意向が違っていたりすることも多いので、その調整はなかなか大変ですね」とその苦労を語ります。
 自分の家庭では本当に今何が必要なのか、本人の意向を踏まえつつ、家族間で事前に調整しておくことが大切なようです。
 ケアマネジャーの仕事は、ケアプランを作成したら終わりではなく、むしろここからが始まりです。サービス利用者のその後の効果を見極めるため、1カ月ごとに点検の作業を行います。利用者の状態に変化はないか、サービスに満足しているか、各事業所のサービスに問題はないかなどを検討し続けます。状況が変わった場合には、変更しなければなりません。サービス提供事業者と混同されがちですが、利用料金の給付の管理まで行う独立した立場です。

申請から利用までの流れ

要介護度を認定する際の状態像の考え方

保険でできるいろいろ内容をしっかり把握する

 介護保険で利用できるサービスは、「居宅サービス」「地域密着型サービス」「施設サービス」などに大別されます。
 この中で最も種類が多いのが「居宅サービス」で自宅など生活の場で受けることができるサービスです。これには①訪問を受けて利用するサービス②施設に通って受けるサービス③施設に入所して受けるサービス④福祉用具に関するサービス⑤住宅環境を整備するサービスなどがあります。
 「訪問を受けて利用するサービス」の代表的な例は訪問介護(ホームヘルプ)です。ホームヘルパーが居宅を訪問して、入浴・排せつ・食事などの身体介護や、調理・洗濯など生活援助を行います。そのほか訪問入浴介護、訪問リハビリテーション、訪問看護、居宅療養管理指導などがあります。
 「施設に通って受けるサービス」の代表例は、通所介護(デイサービス)です。通所介護施設に行って、食事・入浴などの日常生活上の支援や、生活行為向上のための支援を日帰りで行います。ほかに通所リハビリテーション(デイケア)があります。
 「施設に入所して受けるサービス」はショートステイと呼ばれるもの。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設、老人療養型医療施設などに、短期間入所するものです。また、介護保険の指定を受けた軽費老人ホーム(ケアハウス)や有料老人ホームなどに入居している人に介護サービス計画に基づいたサービスを行う特定施設入居者生活介護もあります。
 「福祉用具に関するサービス」には、車いす・ベッド・床ずれ防止用具・歩行器などの福祉用具の貸与、さらに腰掛便座・入浴補助用具などの福祉用具購入費の支給があります。
 「住宅環境を整備するサービス」は、手すりの取り付けや段差の解消などについて、住宅改修費が支給されるものです。
 「地域密着型サービス」は認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護・認知症対応型通所介護・夜間対応型訪問介護・介護老人福祉施設入所生活介護などがあります。
 「施設サービス」は在宅介護が困難な人が介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、老人療養型医療施設に入所するものです。
 このようにサービスは多岐にわたっいます。心身の状況に合わせ、最も合ったものを選択するよう心がけましょう。

介護保険で利用できるサービスの種類

地域包括支援センターと連絡を取り合って。

自治会役員、福祉関係者、鬼怒地域包括支援センター
合同の地域ケア会議

 できるだけ介護の状態にならないことが望ましいのは言うまでもありません。そこで重要な役割を果たしているのが、県内各地域に設けられている地域包括支援センターです。平成18年の介護保険法の改正を受けて、全国の各市町村が設置したものです。
 身近に高齢者がいない家庭では、どのようなことをする機関なのかよく分からないかもしれませんが、総体としては、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう支援を行うことを目的に掲げています。
 例えば宇都宮市内には中学校区単位に25カ所が運営されており、皆さんの住まいの近くにも必ずあるはずです。市町村が直接運営しているところもありますが、社会福祉法人や医療法人に業務を委託している場合もあります。受けられるサービスの内容に差はありません。
 主な業務は 一.介護予防ケアマネジメント 二.総合相談・支援事業 三.権利擁護事業 四.包括的・継続的ケアマネジメント事業の4つ。
 地域診断が得意な保健師、ソーシャルワーカーとしての社会福祉士、介護保険制度に精通している主任ケアマネジャーが置かれ、専門性を生かしながら連携して業務に当たっています。
 この中の介護予防のケアマネジメントが、できるだけ介護という状況に至らないように、元気なうちから心身を健康に保つことを目指した機能です。要介護認定で「要支援」に認定される前の、特に病気もなく元気な高齢者を「一次予防高齢者」、少し注意が必要な高齢者を「二次予防高齢者」として、「二次」の人たちを対象に健康教室などを開催して状態が改善するよう働きかけます。一次か二次かは、老人会などを通じて「介護予防基本チェックリスト」でチェックしてもらうなどして断定していきます。
 「要支援1、2」と認定された場合、介護予防にも介護保険が使えるいろいろなサービスがあります。このサービスを受けるのに必要な「介護予防ケアプラン」の作成に当たるのが地域包括支援センターなのです。ホームヘルプ、デイサービス、通所リハビリテーション(デイケア)などが代表的なところです。

池田正典さん

 そのほか地域包括支援センターは高齢者にかかわるあらゆる問題の窓口として、困りごとがあれば相談に乗ってくれます。もちろんここですべてが処理できるわけではありませんが、何が必要なのかを一緒に考え、アドバイスしてくれます。
 そうした個人に対する支援を積み重ねながら、全体の課題を浮き彫りにして、住みやすい地域づくりを行っていこうというものです。高齢者の財産管理のための成年後見制度の普及・活用や、高齢者虐待問題も業務に含まれています。
 宇都宮市の鬼怒地域包括支援センターの池田正典さん(主任介護支援専門員・社会福祉士)は、「高齢者福祉の窓口と自治会などとの連携を強めながら、福祉にとどまらず、まちづくりそのものに取り組んでいきたい」と話しています。


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